正倉院紀要に見るサンジャク
挿入53
サンジャク
(資料)
挿入53
南倉150
花氈
第5号(部分)
3-2-3。サンジャクUrocissa erythrorhyncha (挿図53)
 サンジャクはスズメ目カラス科に属する陸鳥で、全長65-68pある。頭部は黒く、頭頂から後頸にかけて白い冠羽がありやや帽子状に見える。腹は白く、体上面と翼と尾は淡青色をしている。尾が長く先端はやや下向きにしだれて見える。尾羽は中央から側面になるに従って徐々に短くなっている。それぞれの尾羽の先端には白斑がありその内側に黒斑があるので、尾や側面から見たり、尾を広げた場合、尾のへりが白い斑で段々に見える。嘴と脚は赤い。中国中南域からインドシナ半島をへてヒマラヤ南麓に分布し、森林に棲む。同屬の近隣きばしさんじゃくUrocissa flavirostris があり、サンジャクとよく似ているが頭部の白斑の形が異なるため帽子をかぶつたように見えず、また嘴が黄色い。キバシサンシャクの分布はヒマラヤ南麓から帯状にビルマ北部、中国雲南省、ベトナムの北西部に及び、サンジャクよりも高い標高に分布する。
 サンジャクの文様でよく特徴をとらえたものは花氈第5号(北倉150)(挿図54)に見られる。朱色の嘴、黒い顔、帽子状に白い頭部、淡青色の体、中央尾羽が長く下にしだれ側方の尾羽は徐々に短くなっているなど、サンジャクの特徴をよくあらわしている。紅牙撥鏤尺甲(北倉13)の鳥も頭頂のパターンや尾羽の形状からサンジャクと考えられる。サンジャクとした文様の中には銀平脱合子(北倉154)、密蛇彩絵箱第15号(中倉143)、紫檀木画琵琶第2号(南倉101)に見られるように体型からサンジャクの名を挙げてあるが、色彩ないしパターンの特徴のはっきりしないものが数多く含まれている。そういったものから碧地金銀絵箱第21号(中倉151)にあるようなただ尾の長い鳥としか言いようのないとしか言いようのない文様まで連続して存在する。こういった特徴のはっきりしないものの中には同様に尾の長いキジ族やホンセイインコ属の特徴のはっきりしないものとの移行形と思われるものであった。
 なお、特徴のはっきりしたものでキバシサンジャクと考えられるものはなかった。

【正倉院紀要−宮内庁正倉院事務所−平成12年3月 第22号 (18)・(19)】より抜出